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靄立ち昇る紅葉の丹波東部

旅行日:平成28年11月(8~)9~11日①

 昨年の10月に対馬,今年の6月に佐渡を訪れた。これで私の行ったことのない律令国は壱岐だけとなった。
 しかし,よくよく確認してみると,鉄道で通過しただけの国が二つあった。丹後国と若狭国である。前者は京都府の舞鶴市や宮津市,後者は福井県の小浜市などで,両者は隣接している。
 壱岐に行くのがいつになるのかはまったくの未定であるが,その時にはすっきりした気持ちで“全国制覇”を宣言したい。
 丹後と若狭には申し訳ないけれど,そんな消極的な気持ちで今回の旅の企画は始まった。
 むろん,地図を開けば立ち寄りたい場所は無数に散らばっているし,要するに旅に行かれればどこでもいいのである。
丹後若狭


 11月9日,9時半頃。京都府南丹市の京都縦貫道八木西ICで,約17時間ぶりに高速道路を出た。
 昨日は15時半過ぎにクルマで家を出発し,滋賀県多賀SAでの一泊を挟んで,京都府までやって来た。そこまでの模様は長いので,別記事「丹波までの長い道のり」に記した。

 南丹市の中心をなす園部まで国道9号を4キロほど走り,JR山陰線沿いに進む。船岡駅を過ぎると桂川に寄り添い,嵌入蛇行する川を遡る。日吉ダムに立ち寄ると,遂に雨になった。

桂川本流の日吉ダム,ダム湖は天若湖
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 日吉ダムの桂川はこの辺りでは大堰(おおい)川と呼ばれている。桂川は京都盆地の西で鴨川・宇治川と合流し,淀川となって大阪湾に注ぐ。しかし,かつてはその上流部が由良川水系に属していたと考えられている。つまり,現在日吉で西から南へと向きを変えて流れている大堰川は,もともと北に向かって流れ下り,由良川となって日本海に注いでいたという訳だ。
 流れを変えたのは,丹波高地の活発な断層運動によるとされる。これによって亀岡盆地附近が沈降して桂川側が下刻されていった結果,由良川水系上流の谷が奪われる河川争奪が起こったのだそうだ。現在の分水界は南丹市日吉町胡麻にあり,標高は中央分水界としてはかなり低い約200メートルに過ぎない。
 地形図をよく見ると,胡麻以外にも園部附近などで川の流れに背いた不自然な平地が目立つ。

河川争奪による,由良川水系淀川水系を隔てる平地の分水界
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(地理院地図より,筆者作成)

 胡麻のあたりは県道が繋がっていないので,県道80号で須知(京丹波町)に到り,国道9号に復帰する。日吉と須知の間,標高僅か220メートルほどの名無し峠が中央分水嶺で,いつの間にか日本海側に移った。
 福知山に向かう国道9号から舞鶴に向かう国道27号に岐かれ,下山駅の近くで少々寄り道。

 京丹波町下山の蕨という集落に古い茅葺屋根の民家が残っている。この渡辺家住宅の建物は17世紀末から18世紀初めに建てられたとされる。屋根の造りが北船井型というのに分類されるらしい。京丹波町は船井郡に属するから,地域によって差異があるのだろう。

大きな茅葺屋根が特徴の渡辺家住宅
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集落の裏手の山々が色づく
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 集落内には大福光寺という古刹がある。人気はなく,集落や道路と同じ面にあって境界も曖昧であったが,その分集落に溶け込んでいるように思えた。毘沙門天を祀ることから,“蕨の毘沙門さん”と言われているらしい。

 大福光寺は延喜年間(728~806)に鞍馬寺の僧釈峰延が開いたとされ,鎌倉末期の嘉暦2年(1327)に足利尊氏によって現在地に移った。中世には将軍足利家の祈祷所であった。
 伽藍は戦国時代の兵火で失われ,現在も残る本堂と多宝塔が建っているだけとなった。毘沙門堂(本堂)は嘉暦2年の建立で,和様を主として禅宗様の影響も見られるという。多宝塔も同年に建立されたものが残っている。いずれも国重文。

入母屋反り屋根が端正な大福光寺毘沙門堂(本堂)
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同多宝塔
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 高屋川とJR山陰線に沿って国道27号を下っていくと,和知の手前で高屋川と由良川が出合う。国道はそのまま由良川沿いに下っていくが,私はここを右折し,由良川上流へと分け入る。

 天候の方は時折雨が強くなるものの,弱まって薄日が射すときもあり,なかなか目まぐるしい。紅葉している間は好天が続くと軽く考えていたが,どうやら山陰地方は冬に足を踏み入れつつあるようだ。
 大野ダムでは一時的に雹まで降り,フロントガラスをパチパチと音を立てた。

大野ダム堤体からは常緑樹,黄葉紅葉が入り混じった谷が見られた
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 南丹市美山町静原まで行くと,国道162号に合流。国道は遠回りして流れる由良川には付き合いきれないとばかり,九鬼ケ坂という峠を越える。低い峠だが,タイトなコーナーが続いた。
 再び由良川の谷に下り,今度は府道38号。嵌入蛇行する由良川沿いに狭い耕地が細長く続き,所々に鄙びた集落が点在する。
 目当ての「北」集落はすぐに判った。道沿いに大駐車場があり,鄙びた風景に相応しくない観光バスが何台も停まっていたからだ。
 紅葉シーズンだからか観光客が多く,土産物屋も賑わっている。これほど観光地化されているとは思わなかった。
 この集落には茅葺屋根の建物が多く残り,ここまで辿ってきた集落とは明らかに違っている。

南丹市美山町の北集落
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 北は「かやぶきの里」として知られ,国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
 「北」というのは大字名で,町村制以前は北村であった。北だけでは分かりづらいので,現在でも北村と表されることもある。「北」という文字から何となく寒々した印象を受けるが,「川の北側」にある,すなわち南向きの条件の良いところに立地する。
 北村は中世の知井庄12ケ村の一つで,周りには「南」や「中」,「下」などの抽象的な大字が多い。

 集落のすぐ裏手はスギの林となっているが,後ろの山は混交林となっていて,赤黄緑と様々に色を変えた木々が生い茂る。谷筋からは靄が立ち昇り,日本的な美しさを見せている。すっきりとした秋空もいいが,こういう湿っぽい眺めもまた良いものだ。

雨に濡れる茅葺屋根の家々
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紅葉と靄の取り合わせが美しい
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 この地域の建物の特徴は屋根に多い。入母屋造りで,てっぺん(大棟)に千木と雪割りを載せている。
 入母屋は切妻と寄棟を併せた形態で,側面側の屋根(妻面)に庇がついている。
 千木は神社建築にも用いられる屋根上の「X」字型の木である。神社の千木は削ぎ方によって男神と女神の別を表すが,民家なのでそんなことはしていない。千木と垂直に取り付けられた長い棒が雪割りで,これが付いていることによって屋根に積もった雪が左右に分かれる仕掛けになっているのだそうだ。

入母屋造りに千木,雪割りを載せる
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晩秋のカキの木
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小さな耕地にもシカ除けネットが欠かせないようだ
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 傘を差して歩き出したものの,雨が弱まって薄日が射した。靄が際立ち,紅葉した木々や茅葺屋根が輝く。
 しかし,それも長くは続かず,すぐに暗くなって雨が降り出す。クルマに戻った時にはみぞれ交じりのようだった。

僅かに陽が射し,明るい屋根や丸ポストが輝いた
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北集落の南側を流れる由良川
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 府道は遥か京都の鞍馬に通じているが,静原まで引き返し,国道162号を北上する。
 国道162号はかつての周山街道を踏襲する。周山街道は京の西郊の宇多野から高雄,周山,山国,鶴ケ岡を経て,若狭国に通じる鯖街道の一つであった。
 丹波と若狭の国境をなす堀越峠をトンネルで抜け,福井県に入る。直進すると小浜に到るが,私は名田の口坂本から石山坂峠を越えておおい町の高浜に抜ける。

 石山坂峠は大型車通行禁止となっていたので,厳しい道を想像していたのだが,あっさり峠に着いてしまって拍子抜けする。
 北側ではやや道幅が狭くなったが,たちまち新道に切り替わり,大胆なセミループとループを組み合わせて一気に下っていった。

石山坂峠おおい町側のループ橋とセミループ(下り切ったところで振り返って撮影)
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目のまわりそうな楽しい峠
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 舞鶴若狭道の大飯高浜ICを経て,長いトンネルを抜けると,JR小浜線と国道27号をまとめて跨ぎ越し,半周して国道に行き当たる。右折して舞鶴市を目指す。

次の記事 丹後田辺(舞鶴)城下町を歩く
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